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預言者ヨナは、イラクの共同体に対して遣わされました。イスラーム学問の顕学イブン・カスィールは、そこがニネベであるとしています。他の預言者たち同様、ヨナはニネベの人々を、唯一なる神への崇拝へと呼びかけました。彼は、共同者・子女・同位者なき神について語り、人々が偶像を崇拝したり、悪態をついたりすることを改めるよう求めたのです。しかし、人々は彼の言葉に耳を貸そうとはせず、ヨナの忠告を無視しました。彼らは預言者ヨナに苛立っていました。





人々の振る舞いはヨナを憤慨させ、彼はその地を去ることに決めました。彼は、神が彼らの傲慢な態度に懲罰を与えるだろうと最後の警告を発しましたが、人々は嘲笑し、そんなことを怖れてなどはいないと言い放ちました。ヨナの心は、愚かな人々への怒りに満ち溢れました。彼は人々を悲惨な運命のなかに放っておくことにしました。ヨナはいくばくかの荷物をまとめ、人々から可能な限りの距離を離れることにしました。





 “…かれ(ヨナ)が激怒して出かけた時を思いなさい。”(クルアーン21:87)





イブン・カスィールは、ヨナが去った直後のニネベの様相について説明しています。空の色は、炎のような赤色に変化しました。人々は恐怖におののき、破滅が目の前まで迫ってきていることをようやく理解しました。ニネベの全住民は山頂に集い、神の赦しを請い願いました。神は彼らの悔悟をお受け入れになり、彼らの頭上を覆っていた不吉な兆候を取り除かれました。空は元通りになり、人々はそれぞれの家に帰宅しました。彼らはヨナが戻り、人々を正道へと導いてくれるよう祈りました。





その間、ヨナは船に乗り、人々から出来る限り遠ざかろうとしていました。何人かの乗員を乗せた船は、穏やかな海に向けて出航しました。すると辺りが暗くなり、天候が急変しました。猛烈な嵐による強風が吹き荒れると、船は揺さぶられ、今にも崩壊せんばかりでした。乗員たちは暗闇の中、船べりから海へと荷物を放り投げましたが、それは何の変化ももたらしませんでした。乗員たちは船の重量に問題があると考え、くじ引きをして乗員の一人を船外に放り投げることにしました。





波は山のように大きく、暴風は船をあたかも小枝のように軽々と上下させました。全員の名前を書いたくじを引き、乗員の一人を船外に放り投げることは船乗りたちの伝統でした。くじが引かれ、ヨナの名前が当たると、乗員たちは戸惑いました。ヨナは謹厳実直な者として知られており、彼らはヨナを荒れ狂う海に放り投げることをためらいました。彼らは再三くじを引きましたが、ヨナの名前が繰り返し引かれたのです。





神の預言者であるヨナは、それが偶然ではないことに気付きました。彼はそれが神によって定められた運命であることを理解し、乗員たちに目をやると、自ら船を飛び降りたのです。海面に落ちたヨナが、巨大な魚によって飲み込まれるのを目撃した乗員たちは、思わず息を飲みました。





ヨナは意識を取り戻すと、彼は自分が死んで、墓の中にいるのだと思いました。彼は周りを探り、そこが墓の中ではなく、巨大な魚の腹の中であることに気付きました。彼は怖れました。彼の心臓は動悸を早め、息を吸い込むごとにそれが喉に迫ってくるような感覚に捕らわれました。ヨナは、皮膚を焼くような強い酸性の胃液の中に座っており、神の助けを求めて叫びました。魚の中の暗闇、海の暗闇、そして夜の暗闇の中で、ヨナは神にすがったのです。





 “あなたの外に神はありません。あなたの栄光を讃えます。本当にわたしは不義な者でした。”(クルアーン21:87)





ヨナは神へと祈り、嘆願し続けました。彼は自身の過ちを認め、神の赦しを請い願ったのです。預言者ムハンマドは、神を想念し続ける人物には、天使たちが近寄ってくることを私たちに告げています。それが、預言者ヨナに起きたことでした。天使たちは暗闇の中の彼の叫びを聞きつけ、彼の声に気付いたのです。彼らは預言者ヨナと彼の逆境における立派な態度を知っていました。天使たちは神にこう言いました。「あの声は、あなたの忠実なしもべのものではありませんか?」





神はそうだと述べました。神はヨナの呼びかけを聞き、彼を救い出したのです。ヨナは安楽の時においても神を想念していたため、神は苦難の時においてヨナを見捨てはしなかったのです。ヨナの行った祈願は、苦難における祈願として、誰によって行うことも出来ます。神はクルアーンにおいて、かれがヨナを救ったように、信仰する者を救い出すと述べています。(クルアーン21:88)





神の命により、巨大な魚は浮かび上がり、ヨナを岸辺に吐き出しました。ヨナの身体は胃液によって火傷を負っていました。彼の皮膚は日光や風に耐えることが出来ず、ヨナは苦痛からの保護を請い願って叫びました。彼がその祈願を続けると、神は木のつるを彼の周りに伸ばし、それはヨナを自然要素から護り、食物を供給しました。ヨナが徐々に回復すると、彼は人々の元に戻り、神によって定められた使命を果たすことを決意しました。





 “本当にユーヌスも、使徒であった。かれが(荷を)満載した舟に(乗って)逃れた時、かれは籤を引いて、負けてしまった。(そして海に投げ込まれると)大魚に丸呑みにされ、かれは自責の念にかられた。かれが(悔悟して主を)讃えなかったならば、かれら(人びと)が(復活して)起こされる日まで、必ずかれは魚の腹の中に留まったであろうだがわれは、荒れ果てた(岸辺)にかれを打ち上げた。かれは病んでいた。われはかれの上に、1本のヒサゴ木を繁らせ(影を作った)。そして10万人、またはそれ以上(の民)にかれを遣わした。かれらが信仰に入ったので、われはしばし現世の享楽を許した。”(クルアーン37:139−148)





回復してニネベに戻ったヨナは、人々の変貌ぶりに驚愕しました。彼らはヨナに、血のように真っ赤に染まった空に恐怖し、山に集って神の赦しを嘆願したときのことを告げました。ヨナは人々に唯一なる神の崇拝、そして敬虔で実直な生き方を説き、10万人のニネベの人々は、束の間の現世の平和を享受しました。





預言者ヨナの逸話は、私たちに逆境における忍耐を教えます。それは、順境か逆境かに関わらず神を忘れないこと、そして人生を通してそうすることを教えるのです。私たちが若くして神を忘れなければ、かれは私たちが老いても私たちのことお見捨てにはならず、私たちが健康なときに神を忘れなければ、かれは私たちが病気や悲しみ、衰えの時でもお見捨てにはならないのです。苦難とは、真摯に神に向かい合うことのみによって和らげられるのです。





神はクルアーンのなかで、諸預言者・諸使徒がすべての民に遣わされ、彼らの携え、広めたメッセージはただ一つ、つまり共同者や子女なき唯一なる神を崇拝することであることを述べています。クルアーン、そして預言者ムハンマドにまつわる伝承によって言及されている大半の預言者たちは認知され、ユダヤ教・キリスト教双方によっても預言者であると見なされています。しかし預言者サーリフは4人のアラブの預言者の内の一人であり、彼の物語は広く知れ渡っているものではありません。





 “われはあなた以前にも、使徒たちを遣わした。その或る者に就いてはあなたに語り、また或る者に就いては語ってはいない。だがどの使徒も、アッラーの御許しによる外、印を齎すことはなかった。そしてアッラーの大命が下れば、真理に基づいて裁かれる。そのとき、虚偽に従った者たちは滅びる。”(クルアーン40:78)





アードとサムードは、彼らの途方もない不道徳により、神によって滅ぼされた2つの強大な文明でした。アードの破滅後、サムードが覇権を握りました。人々は過度に豊かさを追い求め、巨大な建築物を平地に建てたり、崖に刻み込んだりしました。残念なことに、彼らの追い求めた豪華絢爛なライフスタイルには、偶像崇拝と不道徳が伴いました。預言者サーリフは、サムードの民の振る舞いにご満悦されてはいなかった神により、彼らを警告するために遣わされました。その悪しき道を改めなければ、破滅が約束されていたのです。





サーリフは共同体のなかで指導者の地位にあった敬虔で誠実な人物でしたが、彼による唯一なる神への崇拝の呼びかけは、多くの人々を激高させました。一部の人々は彼の英知ある言葉を理解を示しましたが、大半は信じることがなく、サーリフに言葉と行いによる危害を加えました。





 “サーリフよ、あなたはわたしたちの中で、以前望みをかけた人物であった。(今)あなたは、わたしたちの祖先が仕えたものに仕えることを禁じるのか。だがあなたが勧める教えに就いて、わたしたちは真に疑いをもっている。”(クルアーン11:62)





サムードの民は、山陰にある会合の場に集いました。彼らはサーリフの語る唯一なる神が、本当に全能かつ強大であることを証明するようサーリフに要求しました。彼らの要求は、彼が奇跡を起こして見せることで、それは見たこともないような雌ラクダを隣接の山々から出現させてみよ、というものでした。サーリフは民に向け、もしもラクダが現れたのなら彼の言葉を信じるのか尋ねました。彼らは一同に同意し、サーリフと共に奇跡が起こるよう祈りを捧げました。





神の恩寵により、妊娠10ヶ月目の巨大な雌ラクダが山の麓の岩から現れました。一部の人々はこの奇跡の重大性を理解しましたが、大半の人々は不信仰を貫きました。彼らは偉大かつ壮麗な光景を目にしたにも関わらず、傲慢で頑固な態度を変えませんでした。





 “われは以前サムードに、明らかな印の雌ラクダを授けたが、かれらはそれを迫害した。”(クルアーン17:59)





クルアーン注釈学者であり、イスラーム学者であるイブン・カスィールは、雌ラクダとその奇跡的性質に関する記述が複数あることに言及しています。雌ラクダは割れた岩から出現し、その巨大さから町の井戸の水を一日で飲み干したと言われています。また一部ではその雌ラクダが街全体の人々に十分な量の乳を出したとも言われています。そのラクダはサムードの民と共に暮らしましたが、不幸にもサーリフに危害を与えていた不信仰者たちは、その怒りの矛先をラクダに向けたのです。





多くの人々は神を信じ、預言者サーリフに従い、雌ラクダの奇跡を理解していましたが、その他の多くの人々は頑固にも耳を貸そうとしませんでした。人々はラクダが水を飲み過ぎていることや、他の家畜を怯えさせていることに不満を訴え始めました。預言者サーリフはラクダのことが心配になってきたため、人々に対し、ラクダに危害を与えた際には壮大な懲罰が下ることを警告しました。





 “わたしの人びとよ、これはアッラーの雌ラクダで、あなたがたに対する一つの印である。アッラーの大地で放牧し、これに害を加えてはならない。身近かな懲罰に襲われないようにしなさい。”(クルアーン11:64)





ある男達の集まりが彼らの女性たちに雌ラクダの殺害を仕向けると、直ぐに弓矢が放たれ、剣で刺されました。雌ラクダは地面に崩れ落ち、死にました。殺害者らは歓喜し、不信仰者らはサーリフをあざ笑いました。預言者サーリフは、彼らへの壮大な懲罰が三日以内に下されることを警告しましたが、その一方で彼らが自分たちの過ちに気付いて悔悟することを願い続けていました。預言者サーリフはこう言ったのです。「わたしの人びとよ、確かにわたしは主の御告げを宣べ伝え、またあなたがたに助言をした。だがあなたがたは誠実な助言者を喜ばない。」(クルアーン7:79)しかし、サムードの民はサーリフの言葉を嘲笑し、冷淡にも彼らが雌ラクダを殺したように、サーリフとその家族も殺そうとしたのです。





 “この町には9人の一団がいた。かれらは地上に害悪を流し改心しなかった。かれらは言った。「かれ(サーリフ)とその家族を夜襲するように、アッラーにかけて誓いあおう。その後かれの保護者に告げましょう。『わたしたちは、かれの家族の殺害を目撃していません。本当であり嘘ではありません。』」”(クルアーン27:48−49)





神は預言者サーリフと彼の追従者すべてをお救いになりました。彼らは必要最低限の荷物をまとめ、重い心で別の場所に移ったのです。3日後、預言者サーリフが警告していたことが実現しました。空は雷鳴に轟き、大地は激しく揺れました。神はサムードの都市を壊滅させ、その民は恐怖と不信仰のまま滅亡したのです。





イブン・カスィールによると、サーリフの民は皆、一度に崩れ落ちて死んだとされています。彼らの傲慢さと不信仰、また彼らの偶像が、彼らを救うことはありませんでした。彼らの巨大で豪華な建物が彼らに保護を与えることも全くありませんでした。神は人類に明確なしるしを与え続けましたが、不信仰者たちは頑なに拒絶し、傲慢であり続けたのです。神は最も慈悲深く寛大で、たびたび赦される御方ですが、神の警告は無視されるべきではないのです。サムードの民が味わったように、神の懲罰は迅速かつ熾烈なものともなるのです。





 



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