神の預言者たちは私たちと同じ人間に過ぎませんでしたが、彼らの任務には卓越した特質が必要でした。一人一人の預言者は同じ教えを説きましたが、それは唯一なる神を崇拝することが人間の目的である、ということです(クルアーン51:56)。また、彼らは神の法を適用し遵守させることも求められました。それぞれの預言者が信頼されるようにと、神は彼らが遣わされた人々にとって理解しやすい奇跡を授けました。預言者ソロモンを定義する奇跡とは、彼の比類なき王国でした1。
預言者ダビデと息子のソロモンは共に、神によって知識と善き判断力が授けられていたため、賢明で公正な統治者でした。ダビデは王国を建国し、ソロモンはイスラエルの民を黄金期へと導きました。ソロモンの王国は、過去に存在した、あるいは将来的に存在するであろういかなるものとも異なりました。最も良き計画者である神は、ソロモンにいくつもの試練を課し、それらは彼の性格を磨き上げるためのものだったため、彼の人生は知識と経験を積ませる出来事に満ちていました。
神がソロモンを「優れたしもべ」と呼ぶのは、彼による真摯な悔悟に因んでいます。ある時ソロモンは乗馬に没頭するあまり、午後の礼拝の時間が過ぎてしまいました。しかし、彼は自分の過ちに気付くと悲しみ、後悔の念と共に神へと向き直り、お赦しを嘆願したのです。
“われはダーウード(ダビデ)にスライマーン(ソロモン)を授けた。何と優れたしもべではないか。かれは悔悟して常に(われに)帰った。(ある日の)黄昏時、駿馬が、かれに献上された時のことを思い起しなさい。かれは言った。「本当にわたしは、(この世の)素晴しい物をめでて、夜の帳が降りるまで、主を念ずることを忘れてしまったのです。さあ、その馬を連れて参れ。そしてかれは、馬の足と首を切り落としてしまった。またわれはスライマーンを試み…”(クルアーン38:30−34)
預言者ダビデの死に際し、ソロモンは預言者性と王国の双方を引き継ぎました。ソロモンはその英知の深さから、神の力について鋭い認識力を有していました。彼は自らの置かれた状況が容易であれ困難であれ、神こそがそれをもたらした者であるということを認め、神を讃えました。彼は言いました。“アッラーを讃えます。”(クルアーン27:15)神に祈願しない限りは、いかなる力や強さも彼のものとはならないことをソロモンは理解していました。それゆえ、彼は神を拠り所とし、決して越えられることのない王国を求めたのです。神はその祈願に応えました。彼はソロモンに多くの能力を授け、それらは偉大なる王国の確立を助けたのです。
“(かれは)言った。「主よ、わたしを御赦し下さい。そして後世の誰も持ち得ない程の王国をわたしに御与え下さい。本当にあなたは豊かに与えられる方です。」
そこでわれは、風をかれに従わせた。それはかれの思うままに、その命令によって望む所に静かに吹く。またわれはシャイターン(悪魔)たちを、(かれに服従させた。その中には)大工があり潜水夫もあり、またその外に、スライマーン(ソロモン)の命令に服さず鎖に繋がれた者もいた。(主は仰せられた。)「これがわれの賜物である。あなたが与えようと、控えようと、問題はない。」
かれは(今)われの近くにいて、幸せな(悟りきった)帰り所にいる。”(クルアーン38:35−40)
預言者ソロモンは神の御意によって、風を操って利用することが出来ました。彼はそれにより、僅かな時間で遠く離れた場所まで移動することが出来たのです。さらに、ソロモンはジン2の中の悪魔たちを操り、かれらに建造物の建築、鉱物の採掘、財宝探索の潜水、そして王国内の諸施設の監視などをさせることが出来ました。また神は、ソロモンに溶けた銅の湧き出る泉を授けました。彼の父ダビデが鉄を捏ねることが出来たように、ソロモンは銅の道具や武具、器具などを作ることが出来たのです。
“またわれは、猛威を奮う風(を起す術)をスライマーン(ソロモン)に(授け)、かれ(スライマーン)の命令の下に、われが祝福する地に吹かせた。われは凡てのことを知るものである。また悪魔たちの中にも、かれのために潜水する者あり、またその外の仕事をしている者もあった。われはいつもかれらを見張っていた。”(クルアーン21:81−82)
“またスライマーンには風を(支配させ)、(その風の一吹きで)一朝に一ケ月(の旅路)を、また一夕に一ケ月(の帰路)を(旅させた)。またわれはかれらに熔けた銅の泉を湧き出させた。また主の御許しによりあるジン(幽精)に、かれの面前で働かせ、かれらの中われの命令に背く者には、烈しい焔の懲罰を味わわせた。かれらは、かれ(スライマーン)のためにその望む高殿や彫像や池のような水盤、また固定した大釜を製作した。(それぞれの持場で)「あなたがたは働け、ダーウード(ダビデ)の家族よ、感謝して働け。」だがわれのしもベの中で感謝する者は僅かである。”(クルアーン34:12−13)
預言者ソロモンは偉大なる名声を博する国王でした。彼の王国は比類なきものであり、イスラエルの民の黄金期を象徴するものでした。彼は英知と公正さをもって統治し、すべての力と強さは神のみによるものであることを認知しました。しかしながら、その地域における強大な統治者はソロモン王だけではありませんでした。現在のイエメンにあたるシバとして知られた土地には、ビルキスという名の女王がいたのです。