預言者サムエルは、イスラエルの民(古代イスラエル人)にサウルという敬虔な若者が彼らの王、そして指導者となることを告げました。当時のイスラエルの民はそれに関して苦情を述べ連ね、神のしるしを要求しました。神はその果てしなき英知から、彼らに紛れもないしるしを授けました。天使たちがイスラエルの民へ、ペリシテ人によって奪われた聖櫃を返還したのです。心の拠り所を取り戻したイスラエルの民は、サウルを王として認めました。
しかしサウルは、イスラエルの民が敬虔さと善良さからは遠く離れた人々であることを認識していました。暫くすると、サウルはペリシテ人によって征服された故郷の土地を取り戻すため、軍隊の組織を決意しました。サウルは彼の戦士たちが純粋な心を持ち、神のために勇敢に戦う者たちであることを確信したかったことから、自主的に数々の試験を通り抜けた者たちだけを選びました。彼は大軍を望んでいたのではありません。彼は不平を述べたりせず、試練と困難に直面することの出来る、敬虔で勇敢な者たちを望んだのです。
イスラームの歴史学者たちは、サウルの軍隊が当初は8万人だったと推定します。しかしサウルが欲していたのは数の多さ・強さではなく、心と忍耐の強さだったということを理解しなくてはなりません。彼は様々な責任を負わない者が軍隊に入ることを命令したのです。彼は、家々の建築、結婚の近い者、仕事の取引に忙しい者は入隊しないよう命じました。サウル王は、砂漠の中で軍隊を疲労と極度の渇きを覚えるまで行進させることによって、彼の軍隊を試しました。彼らが川に到達したとき、彼らは目の前に水があるのを見ましたが、サウルはそれを飲まないよう彼らに命じました。誰であれ川の水を飲んだ者は、軍隊から除隊されることを彼は告げ知らせたのです。
“タールート(サウル)が軍を率いて出征する時、かれは言った。「本当にアッラーは、川であなたがたを試みられる。誰でも川の水を飲む者は、わが民ではない。だがそれを味わおうとしない者は、きっとわが民である。只手のひらで、一すくいするだけは別だ。」だが少数の者の外、かれらはそれを飲んだ。”(クルアーン2:249)
サウル王は、彼らにそれを全く飲まないでおくか、必要ならば一すくいだけ飲むことを指示しました。7万6千人は川から水を飲みました。それゆえ、サウルには4千人の軍隊が残されました。サウルは、困難に直面しても強い意思をもって誘惑に打ち勝つことの出来る者たちを望んでいたため、それで満足しました。しかし、彼らはすぐにもう一つの過酷な試練に直面します。サウルの軍隊は川の対岸に敵軍を発見したのです。彼らは川を渡り、ペリシテ人の軍隊と対峙しました。
“かれ(タールート)およびかれと信仰を共にする者が(川を)渡った時、かれらは、「わたしたちは今日ジャールート(ゴリアテ)とその軍勢に敵対する力はない。」と言った。だがアッラーに会うことを自覚する者たちは言った。「アッラーの御許しのもとに、幾度か少い兵力で大軍にうち勝ったではないか。アッラーは耐え忍ぶ者と共にいられる。」”(クルアーン2:249)
ゴリアテの軍隊の規模は、4千人の多くを恐怖させました。しかし確信を持って神のために戦っている者たちはしっかりと立ち、お互いにこう言いました。「神のお許しから、小さな軍勢が大きな軍勢を打ち負かしたのは、過去に幾度となくあったのだ。」サウルの軍隊の大半は、ペリシテ人の軍隊へと恐怖のまなざしを向けました。彼らの大半は進軍を拒否しました。サウルには最終的に、僅か300人の兵隊しか残されていませんでした。彼らは様々な試練を受け、8万もの軍勢からは300人しか残らなかったのです。
“それからかれらは進んで、ジャールートとその軍勢に見えんとする時、(祈って)言った。「主よ、わたしたちに不屈の精神を注ぎ込んで下さい。わたしたちの足場を固めて、不信心の民に対し、わたしたちを御助け下さい。」”(クルアーン2:250)
小隊がゴリアテ軍と対峙したそのとき、彼らは正面に広がる軍勢の規模に目をやり、神へと信頼を寄せました。彼らは神へ忍耐、そして不信仰者たちへの勝利を祈願しました。サウルの軍隊は小規模でしたが、その一人一人は鉄のように固い意思を持っていました。長身で巨大なペリシテ人の統率者ゴリアテは、300人に向かい行進を始め、彼らは再び神への信頼と勇気の試練を受けたのです。
双方の軍が直面すると、ゴリアテはサウル軍の精鋭との一騎打ちを挑戦しました。サウル軍の兵士たちはイスラエルの民のなかでも最も優れていましたが、彼らはゴリアテに対して恐怖し、狼狽したのです。誰もその挑戦を受けて立とうという者は現れませんでした。サウルはそれに志願する者に対し、彼の美しい娘との結婚を約束しましたが、それでも前に進み出る者はいなかったのです。すると、一人の少年が志願し、それに誰もが仰天しました。ペリシテ人は大声で笑い、サウル軍の兵士たちでさえ、まったく信じられないという風に首を振ったのです。
サウル王はその小さな男児の武器が、ぱちんこだけだったのに気付きました。彼は再度挑戦者を募りましたが、その男児の勇気に見合う者は一人もいなかったのです。男児は自ら、自分が過去に父の羊を守るため、ライオンと熊を殺したことがあると言って、その志願を取り消しませんでした。サウルは、彼が軍隊に課した忍耐の試練を思い出し、自分の正面に勇気、忍耐、そして何よりも神への完全なる信頼を持ち合わせた一人の男児がいるのを見ました。サウルはこのベツレヘム出身の少年ダビデに、巨大なゴリアテとの一騎打ちを許しました。